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2.52024
爬虫類の寿命
あなたは、何をもって「寿命を全うした」と判断しますか?
今回のお話は、
・「寿命を全うするとは?」
・「寿命は時代によって変わる」
・「寿命」とは何か?
についてお話させていただきます。
「寿命を全うするとは?」
爬虫類のブリーディングを始めてから、色々な質問を頂くようになったのですが、その中で
「この子の寿命は何年ですか?」と聞かれることがあります。
トッケイヤモリに関しては「おそらく10年以上、けれどMAXで飼った人はほとんどいないので、正確にはわかりません」とお伝えしております。私はトッケイヤモリの限らず、多くの爬虫類は20年、30年生きることができると思っております(カメなどは100年以上生きる例がありますが...)。
そもそも、ヒトを含めた動物において「寿命を全うする」とは何でしょうか?「老衰により亡くなる」ことでしょうか?「次世代に子孫を残した後に亡くなる」ことでしょうか?では、病気で亡くなったら、それは「寿命」ではないのでしょうか?病気で亡くなっても「生きている内に、やりたいことをやり切った」なら「寿命」でしょうか?
わたしは「寿命」とはかなりいい加減な言葉だと思っています。このよく使われる「寿命」は、「時代」や「考え方」によってメチャクチャ変わります。
「寿命は時代によって変わる」
例えば、令和4年のヒトの平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳となっています。しかし江戸時代では35~40歳ほど、昭和5年頃でも45歳ほど、昭和25年ごろより60歳を超えるようになりました。イヌも40~50年前までは「寿命は10年、最後は血を吐いて死ぬ」と言われていました。これはフィラリアの予防がされていない時代で、10歳くらいで心臓病で亡くなっていたわけです。今では予防薬を飲まないなんてことはなく、フィラリアで死ぬ時代ではなくなったので、小型犬であれば14歳くらいが平均寿命となっています。ネコに関してはさらに顕著で、現在では12~18年、現在も平均寿命は延び続けていると言われています。さらにAIMという物質の発見により、将来的には30年生きる可能性も示唆されています。イヌもネコもヒトも、生活様式や医学の発展により「寿命」は延びてきました。つまり、「寿命」は時代によって変わるのです。
これは爬虫類も同じで、飼育方法、エサの開発、輸入状態によって「寿命」は大きく変わります。レオパであっても20才を超える子たちも珍しくなくなってきました。トッケイヤモリも以前は「長期飼育困難種」でしたが、ヒト、イヌ、ネコと同じで「寿命」は延びているのです。そして、どこまで伸びるかは、これからの飼育技術の発展により変わり、それはまだ「未知数」なのです。
うちの10才越えの子たち
ここからは、獣医師としての少し偏った考え方が含まれるので、読み飛ばしてもらっても構いません。また、爬虫類の話だけでなく、「寿命」とは何か?という哲学的な話にもなってしまいます。ただ、私の話にもう少し付き合っていただけるのであればうれしいです。
「寿命」とは何か?
「寿命」とは「時代」によって変わります。また、「考え方」によっても大きく変わります。ヒトでも爬虫類でも年齢を重ね大きな病気でなく、「老衰」と思われる状態で亡くなる方は、ご家族も「寿命」と思う方が多いと思います。ご高齢であれば、「老衰」でなく病気で亡くなったとしても、「充分生きたよ、寿命だよね」と思われる方も多いと思います。けれど、本人が、「まだやり残したことがある!」や、ご家族が「もっと一緒にいたかった!」と思われる場合は年齢にかかわらず「寿命」と思わないかもしれません。
つまり、「寿命」という言葉はかなり「あやふや」です。もしかしたら、自分を納得させる「方便」すぎないのかもしれません。
「病気」がある場合
動物病院で勤務していると検査も行っていない段階で、「もう寿命ですか?」と聞かれることがあります。私は獣医師という職業柄、「寿命」という言葉をなるべく使いたくありません。なぜなら、「寿命」と言ってしまったら、「しょうがないね」となり、私の出番はないわけです。なので、「もう寿命ですか?」と聞かれたら「わかりません」と答えることが多いです。だって、実際に「わからない」のです。なぜなら「寿命」は「時代」や「考え方」で変わるのですから。
私は治せるものは治せばいいし、良くできるものは良くすればよいと思っています。なので、「寿命」と決めつける前に、検査をして、状況を把握して、「何ができるのか?できないのか?」を検討することが優先だと思っています。ただ、検査や治療によってはリスクが大きかったり、生活が困窮するような費用が掛かったり、苦痛を伴う場合もあります。今の医学では解決できない場合もあります。ですので、獣医師と飼主様がどうしたいかを相談する必要があると思います。
「寿命」を「生物の”生存期間”の限界」と考えた場合
ここからは混乱がないように、亡くなるまでの年数=「生存期間」と表すこととします。
よく質問を受ける「寿命」とは、病気が原因でなく、老衰と思われる状況で亡くなるまでの「生存期間」のことだと思っています。
「生物の”生存期間”の限界」とは何かという話を突き詰めると、生とは何か?死とは何か?という壮大な話になってしまうため、ここでは深く突っ込みません。しかし、一つの目安として「細胞分裂の限界」ということに着目します。
ヒトや爬虫類に関わらず生物は、細胞の集まりでできています。細胞は一定期間で死を迎え、新しい細胞に置き換わります。体が大きくなったり、髪が伸びたり、傷が治ったりするのは、細胞が分裂して増殖を行うからです。
細胞は核というものの中のDNAをコピーして増殖をするのですが、無限にコピーできるわけではありません。コピーをするときに少しずつDNAが失われ、短くなっていきます。DNAの重要な部分が失われてしまうと増殖ができなくなってしまうため、DNAには「テロメア」という、無くなってもいい余分な部分がついています。「テロメア」も徐々に短くなっていくので、この「テロメア」がなくなった時「細胞分裂の限界」を迎えます。こうなってしまうと、生物としての機能が維持できなくなり「死」を迎えます。
これは、「生物の”生存期間”の限界」と呼んでよいのではないかと思っています。ただ、「テロメア」がなくなったかの判断はできないので、特に爬虫類の「生物の”生存期間”の限界」≒「寿命」は「未知数」だと思っています。
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